SHIROTA Gallery シロタ画廊

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第62回
浅野輝一 展

『現代の風景から…』
2012年8月27日(月)-9月1日(土) 11:00 - 19:00・最終日17:00まで


明日への出発 182×227cm

お問い合わせは  shirota-gallery@mqc.biglobe.ne.jp

夢遊と幻視 ―浅野輝一の眼―
 天変地異が作画の対象としてカタストロフィー場面が描かれることは多い。ヒエロニムス・ボスの真夜中、遠景で赤々と天を焦がす大火災がまぎれもなく大惨事の予兆を暗示している。ジョン・マーチンの壮大な風景は不穏な大海と荒涼たる大地の裂け目めがけて天からの雷鳴がとどろくカタストロフの前触れをいみじくも語る。ディーノ・ブッツアーティの惑星が地球に接近し、いましも衝突しようとする場面。また、それ自体は震災ではないが、ファブリッツィオ・クレリチが描くところの真昼の陽光の燦々とあたる古代ローマの廃墟の夢想には、滅び去った帝国の栄華が悲劇的な終末を迎えたことを示す。
 ジェームズ・アンソールの都市市民の騒音に満ちた陽気なおびただしい群衆の中に、甦った現代のキリストを迎え入れる祝祭空間は今を生きる自らの身にひきつけた絵画空間を演出する。密集した集団がパニックに陥る恐慌をも飲み込んでいる。多分にもアンソールを受け継いだ浅野輝一は画家として大震災に触発された共感、連帯感をもって『明日への出発』という大作に取り組んだ。
 2011年3月11日、東日本大震災で直接、間接に哀しみを蒙った人々への思いを伝える。上段には明らかに少年、少女と見られる、ひたすら走り逃れる姿。津波の氾濫する泥と泡の入り混じった水塊。足元どころではなく頭まで水に浸かる、せっぱ詰まった状況の中で懸命に走る群像。下段では若者の一挙手一投足に息をこらして不安げに注視する大人たち。大災害の真っ只中にいて生死の分かれ目に苦闘する一群のひとびとと、必死の面持ちで安否を気遣う視線である。大災害がそれと感じさせずに背景の空間を綿密に塗り上げる手法によって、溶かし込むようにして創られた像は相互関係を緊密に浮かび上がらせる。上下二つの群は同一視点からの作画の目指した往還運動である。それによって互いの移行は(多分に)同時進行し一体化するきざしをも含む。
 浅野はその時どきに社会的事件や刻々と入る世界のニュースをモチーフにして作品を醸成させてきた。2001年9月の国際貿易センタービル爆破の衝撃にも悲しみとそして次に立ち直る未来への希望を託した。
作品名でも「私をとりまく」「今日の」「現代の」と「希望」「展望」と題されることが多い。常に“今”を起点に発信するメッセージは悲劇をバネとして人間の知性が困難を乗り越えられるという確信をもっているようにみえる。
作家 毛利 輝太郎


希望に向かって 162×194cm

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